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私は未だ、安らかな寝息をたてる男子生徒を見つめ、一人悩んでいた。
彼を起こすべきか、起こさないべきか。
選択肢は、この2つだった。
確かに、先生から頼まれた荷物は無事届けた。
しかし彼がここにいる限り、この部屋の鍵はしめられない。
それでは先生の約束に背くこととなってしまう。
けれど、彼を起こすのは気がひけた。
あまりにも気持ち良さそうに眠る彼を起こすのは、可哀想だと思ったのだ。
でもそうなった場合、鍵はしめられない。
すると自動的に、先生の約束を破ることとなってしまう。
部屋のドアと目の前の男子生徒とを見比べ、私は独りでに唸(ウナ)った。
彼を起こすことなど、なんの造作(ゾウサ)ない。
普通にすればいいはずだ。
なのに自分は、なぜこんなにもためらっているのか。
それを疑問に思いながらも、志乃はただ何をするでもなく少年の顔を見つめていた。
何故だろう…。
そしてそっと、揺れるその髪に触れた。
やわらかな髪は風に煽(アオ)られて、触れた私の手に静かに打ち付ける。
どうして、こんなにも…
風が、私の髪も揺らしていく。
二人の髪を、服を、空気を……
揺らす。
その時。
遠くの方で、チャイムが鳴った。
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