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ずいぶんと冷えた風と明るい橙色の光に、俺はうっすらと目をあけた。
まだぼんやりとする意識のなか、目に入ったのは見慣れない大きな本棚と、木製のテーブル。
どこだ、ここ…。
それに見覚えがなかった俺は、訝(イブカ)しげにすっと目を細めた。
眠りにつく前、確か俺は喧嘩をしたはずだ。
それも一方的な。
それから学校を出て、それから……。
鈍った思考回路で寝る前の行動を思い出そうと試みる。
しかしまだ眠気から覚めきれないのか、それは上手くいかなかった。
だから思い出せる記憶も曖昧で、整理がつかない。
けれどそれを頭で片付けるのも面倒になった俺は、1つ大きなあくびをし、次いで寝返りをうった。
そして横を向いたところで、しかし俺の目は何かを捕えた。
雪のように真っ白で、細い何か。
それはまるで…、そう、人の足のようなものだった。
不思議に思って視線をあげる。
するとそこには、小さな寝息をたてて眠る澤村 志乃の姿があった。
それを悟(サト)った瞬間、彼、久我 優人は勢いよく飛び起きて本棚まで後退(アトズサ)った。
彼女から十分な距離をとる。
そして彼には珍しく、いつもなら何の感情もないその顔に、動揺の色をありありと浮かべていた。
それもそのはず。
なんせ、彼がいつも『見守っている』はずの少女が今、目の前にいたのだから。
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