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目を閉じてすやすやと眠る彼女を前にして、眠気なんてものはすでに飛んでいた。
…今はそれどころじゃない。
驚きと疑問が入り交じった複雑な感情に、俺はきゅっと眉を寄せた。
テーブルに背を預け、寝息をたてる澤村 志乃は、果たしていつからそこにいたのか。
しかし彼女が来るずっと前から眠りこけっていた俺には、到底知るよしもない。
そして深いため息をついて、そっと肩の力を抜く。
何にせよ、彼女が起きないことには分からない。
なにも。
志乃に向けていた視線をすっと横にずらし、久我は考え込むようにその双眸(ソウボウ)を薄く閉じた。
頬に、睫毛(マツゲ)の影が落ちる。
彼の閉じた瞼(マブタ)の裏に写るのは、少女の笑顔。
強く、たくましく生きる少女の、温かな笑み。
『死神』である彼の心をも揺るがした少女、澤村 志乃の柔らかな微笑み…。
そして、『あの』一瞬の出来事が次いで脳裏によみがえる。
真っ赤に染まる、白。
嫌な摩擦音。
それは彼女、澤村 志乃が迎えるはずだった、あまりにも理不尽で唐突な最期(サイゴ)の瞬間。
しかしそれを知るのは『死神』である彼、久我 優人ただ一人のみ。
周りはおろか、彼女自身その事実を知らない。
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