41人が本棚に入れています
本棚に追加
「……うぅ…、ん…。」
小さなうめき声と共に、澤村 志乃がうっすらと目をあけた。
俺はびっくりして少し身構えたが、状況をまだ理解できていないのか、彼女はぼんやりと空(クウ)を見ている。
寝起きだから仕方がないが、焦点が合わない。
「……?」
しばらく彼女はその状態のままでいたが、少し目が覚めたのか、俺を見た志乃は不思議そうに首を傾げた。
そしてその仕種がなんだか小動物のするそれに似ていて、とても可愛らしい。
多分本人は無意識だろうが。
「…あの……、」
遠慮がちな声。
その声で我に返ると、完全に目が覚めたらしい彼女が、困ったようにこちらを見ていた。
「ごめんなさい、私…。寝ちゃってて……」
申し訳なさそうに、だんだんと小さくなっていく語尾。
いつになく弱気な声。
乱れた髪を手で整えながら、彼女は俯いた。
それを見て、まるで怒られた子供みたいだ、と俺は思った。
「…いや、こっちこそ。でも、なんでここに?」
「あ、えっと、先生からここに荷物届けるの頼まれてて…。」
彼女はジェスチャーで小さな四角い形を表した。
多分、教材かなにかそこらの物を伝えているのだろう。
続ける。
「それで、鍵しめるのも頼まれてたんですけど…。」
言ってちらりと俺を一瞥(イチベツ)する。
あぁ、成る程。
俺が居たから鍵をしめられず、けれど起こすにも起こせずに、そうこうしているうちにつられて居眠りと、そう言うことか。
察しのいい彼は、見事彼女の行動、言いたいことを一瞬で理解した。
最初のコメントを投稿しよう!