出会いのはじまり

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「……うぅ…、ん…。」 小さなうめき声と共に、澤村 志乃がうっすらと目をあけた。 俺はびっくりして少し身構えたが、状況をまだ理解できていないのか、彼女はぼんやりと空(クウ)を見ている。 寝起きだから仕方がないが、焦点が合わない。 「……?」 しばらく彼女はその状態のままでいたが、少し目が覚めたのか、俺を見た志乃は不思議そうに首を傾げた。 そしてその仕種がなんだか小動物のするそれに似ていて、とても可愛らしい。 多分本人は無意識だろうが。 「…あの……、」 遠慮がちな声。 その声で我に返ると、完全に目が覚めたらしい彼女が、困ったようにこちらを見ていた。 「ごめんなさい、私…。寝ちゃってて……」 申し訳なさそうに、だんだんと小さくなっていく語尾。 いつになく弱気な声。 乱れた髪を手で整えながら、彼女は俯いた。 それを見て、まるで怒られた子供みたいだ、と俺は思った。 「…いや、こっちこそ。でも、なんでここに?」 「あ、えっと、先生からここに荷物届けるの頼まれてて…。」 彼女はジェスチャーで小さな四角い形を表した。 多分、教材かなにかそこらの物を伝えているのだろう。 続ける。 「それで、鍵しめるのも頼まれてたんですけど…。」 言ってちらりと俺を一瞥(イチベツ)する。 あぁ、成る程。 俺が居たから鍵をしめられず、けれど起こすにも起こせずに、そうこうしているうちにつられて居眠りと、そう言うことか。 察しのいい彼は、見事彼女の行動、言いたいことを一瞬で理解した。
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