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「今日は何時帰り?」
カバンに弁当をしまっていると、洗い物をし終えた兄がエプロンを脱ぎながらそう訊(タズ)ねてきた。
確か今日は部活もなかったはずだ。
「多分4時くらいかな?今日は用事、何もないから。」
「そっか。」
言うと兄はどこか安堵(アンド)したように、息をついた。
続けて、
「じゃあ今日は、一緒にご飯食べれるね」
と、そう笑った。
澤村家の晩ご飯は、お兄ちゃんと私の2人のみ。
両親はいない。
そして私たち2人はいつも、晩ご飯は共通して共に、ばらばらなことが多い。
お兄ちゃんの仕事が長引くこともあって、先にご飯を食べ始めてしまうこともある。
しかも私は私で学校の都合だったり、色々あって、夕飯を済ませてくることも度々あるから、最近では二人揃って食べるのは珍しいことなのだ。
だから、お兄ちゃんは久しぶりに二人で食べれることが嬉しいのかもしれない。
そう思うと、何だか私まで嬉しくなった。
「うん!じゃあ私、今日は早めに帰ってくるね。」
「ありがとう。でも、気を付けて帰るんだよ?」
「うん。じゃあ、行ってきます。」
マフラーをまいてローファーを履き、カバンを肩に掛け直す。
ドアノブをひねって外に出ると、冷たい外気が入り込んできた。
その冷たさに、改めて冬を痛感する。
「いってらっしゃい。」
その声に振り返ると、玄関まで出てきた兄がにこやかな笑みを浮かべて、小さく手を振っていた。
ちょっと遠慮がちだが、今までの兄からはとても想像のつきにくい姿だ。
そんな変化がほほえましく思え、微笑した私はそれに手を振り返しながら、静かにドアを閉めた。
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