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自宅マンションから学校までは、徒歩で約20分。
バスだと10分もかからず行けるけど、私はそうしなかった。
お金がかかるし、何より私は乗り物があまり好きじゃない。
恐怖症とまではいかないけれど、どうも苦手なのだ。
「寒い…」
肌を刺すような冷気に身をすくめる。
コートのポケットに入れた手は、見なくても赤くなってると分かるくらい冷えていた。
吐く息は白く、目に見えて外が寒いことを知らせてくる。
最低気温は9度だとお兄ちゃんは言っていたけれど、体感温度ではもっと低いような気がしてならない。
徐々に背中が自然と丸くなり、猫背になっていく。
その時。
バシッ
曲がりかけた私の背中を、強く叩くものがあった。
唐突なその衝撃に、驚きと痛みが混雑する。
「…いた……っ」
今しがた叩かれた腰をさすりながら、私は後ろを振り返った。
きっと今の私の顔は、怪訝なものに違いない。
自分でそう自覚しながら、しかし直す気はなかった。
「おはよう、志乃。ばあさんみたいになってたぞ。」
その声を聞き、顔を見た瞬間、何だか拍子抜けした。
そこには幼馴染みである上坂 晴也(カミサカ ハルヤ)が人の悪い笑みを浮かべ、立っていたからだ。
制服の中にパーカーを着込んだ、明らかに校則違反の格好と合った栗色の短髪に、いたずらっ子のように細められた黒目。
そんな彼、晴也とは10年以上の付き合いだ。
高校も何故か一緒になった。
そして私と晴也の関係は、世間一般でいう、いわば幼馴染みという立場である。
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