8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここで入り口から二十メートル。海面から九メートルの海底だ」
「なんだか、山川惣治の冒険小説みたいですね」
「小説と違うのは、危険なのが主人公だけではなくて、自分自身だと言うことだけだ」
宮内はこともなげに言う。
「崩落ですか」
「崩落もあるが、一番多いのは、酸欠だ。息苦しいとか、目眩がしたらすぐに言ってくれ。もっとも、言ったつもりになったところで伸びていることが多いが」
どうやらとんでもないところに来てしまったようだ。
しかし、これだけの規模で巨大な施設。
丸尾にはまさかという思いが、現実になりつつあった。
坑道に入ると、足下に違和感があった。下は砂泥岩とはいえ、岩のはずだが、自分の安全靴の足跡が、ほぼ3mmほどくっきりと沈下して残る。
固めた砂泥であって、岩ではない。そして、この坑道自体が、これだけの柔らかい物質でできている。
ところどころから、水が染み出している。
「ずいぶん地下水が出てますね」
宮内は答えた。
「あ、ここは入り口から23m。海面から11m。染み出しているのは地下水じゃなく、砂泥岩の隙間を抜けてきた海水だよ」
実は、鉱山のような稲荷の鳥居のような支柱もない。
かなり危険な場所に居ることを丸尾は自覚した。
最初のコメントを投稿しよう!