蹉跌

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「ここで入り口から二十メートル。海面から九メートルの海底だ」 「なんだか、山川惣治の冒険小説みたいですね」 「小説と違うのは、危険なのが主人公だけではなくて、自分自身だと言うことだけだ」  宮内はこともなげに言う。 「崩落ですか」 「崩落もあるが、一番多いのは、酸欠だ。息苦しいとか、目眩がしたらすぐに言ってくれ。もっとも、言ったつもりになったところで伸びていることが多いが」  どうやらとんでもないところに来てしまったようだ。  しかし、これだけの規模で巨大な施設。  丸尾にはまさかという思いが、現実になりつつあった。  坑道に入ると、足下に違和感があった。下は砂泥岩とはいえ、岩のはずだが、自分の安全靴の足跡が、ほぼ3mmほどくっきりと沈下して残る。  固めた砂泥であって、岩ではない。そして、この坑道自体が、これだけの柔らかい物質でできている。  ところどころから、水が染み出している。 「ずいぶん地下水が出てますね」  宮内は答えた。 「あ、ここは入り口から23m。海面から11m。染み出しているのは地下水じゃなく、砂泥岩の隙間を抜けてきた海水だよ」  実は、鉱山のような稲荷の鳥居のような支柱もない。  かなり危険な場所に居ることを丸尾は自覚した。
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