蹉跌

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結局午前は、百二十ほどの破壊ピースを分析し、クラックを追いかけるだけで終わった。  途中で白地に十字のヘルメットの大柄な男がやってきて。オーケーサインを見せて去って行った。  白地に赤い線を見ると本能的にカクマルだと思って、身構えてしまう。直接ゲバルトを行っている相手でもないし、実際に暴力闘争を行える人員も経済力も、丸尾の環境にはなかった。  いや、サークルには何もないのかも知れない。  十字のヘルメットは、酸素量チェッカーだったらしい。  坑内の酸素が9%を切ると、警報を鳴らし、全員を坑外に脱出させる。そういう役割だ。 昼休みに地上に向かうのがかなりしんどい。  階段というよりも、崖に張り付いたはしごを23m登る。休憩も中央の広い空間で取りたかった。  中央までは送風機で地上の大気が送られてきていた。  だが、作業時間以外は坑内に人間を残さない規定らしかった。   「あの」  ついに一番気になっていたことを宮内の尻に向かって訊いた。 「これ、原発ですよね」 「ああ、福島第2だ」  宮内はあっけらかんと答えた。  目眩がした。  丸尾は、原発反対デモで、暴れまくった翌日、  原発建設の片棒を担ぎに、  相馬の海辺までやってきたのだ。
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