蹉跌

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1978年4月 旅館 海遊館  宿舎の食事は確かに美味かった。  揚げ物は油の質が良く、カラッと軽く揚がっていた。  そして、イナダが、多かったが、地魚はコリコリした歯触りで、恐ろしく鮮度がいい。  一本400円のビールを必ず夕食で2本。  最初は刺身に日本酒を試してみたが、酒が、あまりにもまずい。  まだ、越乃寒梅が、世間に知られ始めた頃で、日本の酒の99%は、三倍増醸だった。  米が、三分の一。あとは、合成デンプンと焼酎と糖分と調味料。  日本酒とはほど遠いものが、今でもまかり通っている。  少なくとも、日本酒に関しては、未だに、戦後の貧しさが、続いているのだ。  食後は、コミュニケーションのために、社員の麻雀につきあう。  丸尾の苦手な、完全先付けのルール、風速はピンのワンスリー。  焼き鳥、花ドラ、赤ウー入り。  完全先付けでも、平手で上がれば、ドラが引っかかるので、たいがいマンガンにはなる。  しゃべりながら、ふざけながら、原発に関する様々な情報を得ていく。  まず、この貴重な潜入レポートをまとめて、少なくとも、一緒に闘う仲間には、知らせておかなくてはならない。  そして、できることなら、この現場そのものを破壊しておかねばならない。  ただ、かなり学生には高いレートに思えた。しかし、ちぢこまった打ち方では、じり貧になっていく。完全先付けでは一番不利とみられる攻めの打ち方を徹底する。  アリアリの、学生の打ち方で、場を忙しいものにしてしまう。浮き沈みが激しいように見えるが、トータルすれば、そんなに負けたりしない。 「肉食のカモだな」  主任はいつもと違ったタイプの打ち手を歓迎してくれたようだ。
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