蹉跌

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 小春日和。  ワープロをカウンターに開きながら、新聞に眼を通していた。  カルダモンを浮かべた悪趣味な丸尾専用のコーヒーの湯気は、薄れ始めていた。 朝刊の見出しは、丸尾を鋭く貫いていた。 激しい痛みが丸尾を襲った。 それは、  体ではなく、魂に。  あの、福島第2原発で、事故が起こっていた。  自分が基盤調査をした、3号機の一次冷却水の再循環ポンプの回転翼が折れて、炉心に大量の破片が入ったらしい。  発電所は停止に追い込まれた。  原因は、地盤沈下によるゆがみで、金属片は、丸尾の心にも突き刺さった。  そう、丸尾は自首して出たかった。 「犯人は俺だ」
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