蹉跌

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「あ、きょう赴任しました。アルバイトの丸尾です。よろしくお願いします」  誰も振り向かない。  先ほど、玄関で遭った男が、トレーナーに、ジーパン姿で、牌から目を離さずに、言った。 「明日は、六時から食事。六時半にはみんな現場に向かうから、付いていくように。夕食は頼んであるから、六時から七時の間に食べるように。ここの食事はうまいぞ。アルコールは、日本酒とビールだが、その都度自分で現金精算するように」  それから、やっと、流局したらしく、ため息をついて、丸尾を見た。 「ん、作業服3Lまでしかないが、だいじょうぶかなぁ。安全靴は何センチだ?」 「26.5です。作業服は、LL以上なら大丈夫です。」 「穴の中で、かなり動くからなぁ。少し余裕がないと、きついぞ」 「じゃ、3Lで」 「ん、川田。後で、3Lと26.5とヘルメット、軍手、201に持って行っといてくれ」 「はい」  対面の若い男が、第一打の北を切り出しながら、無表情で返事をした。 「まともじゃん」  川田は、返事をしなかった。
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