蹉跌

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 だが、内ゲバ、あさま山荘事件、よど号事件、テルアビブの空港テロ。  新左翼自体がもはや正当性を失ってきていた。  丸尾が顔を出した社研も元々はベ平連に参加する学生サークルだったらしい。ベトナム戦争の終結は反米の戦いのための結集点を消去していた。  更に、狭山事件は昨年八月に上告棄却。  この、誰が見てもおかしい証拠の捏造による冤罪事件はなぜか再審請求が棄却し続けられている。しかし、上告棄却による有罪決定。そして、部落解放運動における日本共産党と部落解放同盟との反目などにより、この戦いもまた、急速に求心力を失っていった。  先月、成田空港は開港四日前に、先鋒隊などの侵入により管制室の機械を破壊され、開港は延期になった。  もはや三里塚芝山連合の農地に命を懸けた戦いも終息に向かい、まるで玉砕戦とも言える自滅的な戦いが続いている。その中で、寮の仲間が何人か、ゲリラ戦の最中に逮捕されていった。  あるいは、丸尾もそこに参加していくべきだったのかもしれない。  三瓶と逢える悦びにうきうきとして四号館を出ていくぺそを見ながら、丸尾は自分の三年間の不毛さに愕然としていた。  そこには何もない、まるで魂の砂漠だ。  ただ、ノートに書き溜めた二万本近い詩が丸尾なのだろう。そして、それは決して世の中のお役に立つようなものではないのだ。  そう、道楽に過ぎないのだ。
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