蹉跌

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1978年4月 福島県富岡  宿舎から現場まで、田圃道を30分余り歩くのだった。花吹雪の下をくぐり、八重桜に気を取られ、のどかな散歩の先に、太平洋を見下ろす高台があった。  U地質調査の社員たちは、早々と現場に着き、三角ベースの野球をしていた。宿舎の旅館ですでに作業服とヘルメット、そして、安全靴に身を固めていた。  元気な連中だ。  丸尾は少し妬ましくなった。 「あ、新人。君は宮内に付いて3号の下に向って」 「はい」  人が一人入れるかどうかの狭い急な階段をいつまでも下っていった。  縦穴はすぐに茶褐色から緑色に色を変えた。  釜揚げのわかめのような緑色だ。 「粘土質ですか?」 「砂泥岩だよ。キミは地質調査をしたことがあるの?」 「都内の井戸掘りのボーリング調査なら」 「うちの仕事は初めてだね」 「はい」  階段を下り終わると、そこには風魔一族が隠れていても不思議ではないほどの、地下広場が広がっていた。  そして、幾本かの横穴が口を開けている。  宮内は小柄でバネのありそうな体で、その横穴の一つに入っていった。充分に二人がすれ違えるほどの広さがある。狭いのは入り口だけなのだ。
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