1.[こんなの私?]

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「かけなさい。」 父は公私分別だけはきっちりとしている。だから、会社でも私とはタメ口で話したりしないのだ。 「今日、柚希をここに呼んだのは、会社のことじゃない。結婚のことだ。」 私はさっき飲んだ紅茶を吐き出しそうな位びっくりした。しかし、落ち着いて 「お相手は?」 と聞き返した。そうすると父は意外な名前を口にした。 「本間真人さんだ。」 ・・・ 私は一瞬固まった。 別に真人のことが嫌いなわけでわない。そして、子供のとき、親同士が仲良かったから、真人のうちへ行くことも多かった。 「なぜですか。」 私は父にその理由を聞いた。 「私と真人君のお父さんは君たちが小さい頃から、二人を結婚させようと約束した。いわゆる、許嫁だ。そして、今が潮時だと思ったんだ。」 父はいつもとは少し違う雰囲気で話した。 私は泣きそうになった。しかしそれをこらえ 「わかりました。」 と言った。 「じゃ、決まりだな。来週の水曜日に家族同士で会う。絶対忘れるな。」 そして私は、会長室を後にした。廊下を歩いているのが精一杯だった。  そのあとの役員会議に私は出席しないで会社を早退した。  愛莉ちゃんからのメールで役員たちは怒りを露にしていたが、父だけは私をかばってくれたということを知った。
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