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「かけなさい。」
父は公私分別だけはきっちりとしている。だから、会社でも私とはタメ口で話したりしないのだ。
「今日、柚希をここに呼んだのは、会社のことじゃない。結婚のことだ。」
私はさっき飲んだ紅茶を吐き出しそうな位びっくりした。しかし、落ち着いて
「お相手は?」
と聞き返した。そうすると父は意外な名前を口にした。
「本間真人さんだ。」
・・・
私は一瞬固まった。
別に真人のことが嫌いなわけでわない。そして、子供のとき、親同士が仲良かったから、真人のうちへ行くことも多かった。
「なぜですか。」
私は父にその理由を聞いた。
「私と真人君のお父さんは君たちが小さい頃から、二人を結婚させようと約束した。いわゆる、許嫁だ。そして、今が潮時だと思ったんだ。」
父はいつもとは少し違う雰囲気で話した。
私は泣きそうになった。しかしそれをこらえ
「わかりました。」
と言った。
「じゃ、決まりだな。来週の水曜日に家族同士で会う。絶対忘れるな。」
そして私は、会長室を後にした。廊下を歩いているのが精一杯だった。
そのあとの役員会議に私は出席しないで会社を早退した。
愛莉ちゃんからのメールで役員たちは怒りを露にしていたが、父だけは私をかばってくれたということを知った。
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