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故に下士官の方こそ必死なのだ。
そして今、墨山は黒壁と共に戦地にあり、命令への忠実さと経験に根差した助言と献策で、よく補佐してくれていると感じていた。
それは同じ下士官、黒壁附の下士官として付き従ってきた沢代明光軍曹も同様であろう。
自身らの先行きを決める命令を出すことを受け入れ、命を預ける。
軍組織の命令は絶対だが、それは無条件に与えられる物では断じて無い。
下士官と兵に命令するに足る者であることを、将校は常に示し続けねばならいのだ。
人が人の下に侍り、人が人の上に立つということは、組織の階級が保証する訳ではなく、分掌が担保している訳でもない。
どのような組織の命令系統でも、ただ人が何を為し何を見せたか、それこそが上位者として許容される要件である。
人はこれを何と呼ぶのか? と黒壁は思う。
沢代が黒壁の前に立ち敬礼を施した。やや遅れて墨山も同じ姿勢を見せる。
黒壁が頷くと二人は腕を下し、墨山が口を開いた。
「黒壁少佐、ご昇進おめでとうございます」
戦地の只中、着た切りの薄汚れた表情を感じさせない朗らかな笑顔が、墨山の濃い顎鬚の伸びる厳つい顔に浮かぶ。
「君達もな」
黒木に対してもそうだったように、大して興味が無さそう言葉を返した黒壁。その黒壁の態度に沢代も破顔して見せた。
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