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「少佐のおかげをもちまして、私の様な者も昇進できました。郷里の家族へも仕送りが増やせそうです」
その言葉に墨山が分厚い唇を笑う形で歪ませる。
「私なんぞは昇進させていただいても、近いうちに憲兵やらなんやらと諍いでも起こして、早々に降格することになるでしょうな! ハッハッハッ!」
野太い笑い声が殺伐とした戦場に響き、黒壁も僅かに口元を綻ばせた。
「まあ、それも本土に帰還するまでは大丈夫だろう。それより輜重の現況を報告してくれ」
黒壁の要請に応えるように墨山が報告を開始する。
「食料は行軍の支障にならないだけ携行し残りは処分することにいたします。また銃弾に関してなのですが……」
そこで一度言葉を切ると、胸の衣嚢から指の大きさほどの物体を取り出した。
「輜重品の中にこれが含まれておりました」
それは黒壁の読みが正答であった証。
水を弾く油紙で丹念な意匠で作られた後装銃用の薬莢だった。
後装銃専用の薬莢がこの場にあるという事実が示すものは明解である。
ウ帝国は後装銃を携行していない。個人として所持している将校は存在するかもしれないが、輜重品の一部として運搬せねばならないほど配備されている訳ではない。
今、この北蝦の地で、後装銃が集積されている場所はただ一つ。
「新造銃も二百丁ばかり積んでおりました。銃弾は回収し兵らに配布しとります。ですが……やはり星陵郭は敵の手に落ちておるようです」
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