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墨山の報告に頷きながら、恐るべき事実に黒壁は思い至っている。
あの天才・フォルカー・ヴァン・ゴルトヴィンタは新造の後装銃の性能に気付いたという事実に。
そして黒壁は当然勘案すべき疑問を口にした。
「星陵郭に後装銃はどれほど収蔵されていたのだろうな?」
だが、墨山も沢代も兵站部とは縁も所縁もなかったため知るはずもない。黒壁自身も返事を期待したものではなかったが。
沢代が筋肉の塊である小柄な体を直立させたまま口を開く。
「少佐、これよりの行動は如何なものになるのでしょう?」
小さな頷きを返すと同時に、黒木が伝令をすべて終えたのか駆け戻って来るのが目に入った。
黒壁ら三人の元に駆け寄った黒木にねぎらいの言葉をかける。
「黒木大尉、御苦労」
その言葉に軽く敬礼で返す黒木。
黒壁は小さな咳払いを一度だけおこなった。
「では第九大隊幹部が揃ったところで行動方針を伝える」
生唾を飲み込むような謹厳な表情を浮かべる黒木・墨山・沢代の三人。
黒壁ら北蝦に残る陽国軍部隊の目的は星陵郭を経由し、蝦島半島から緑水半島を抜け本土に帰還すること。
だがそのためには追撃するウ帝国軍の存在は脅威であり、その脅威を取り除かない限り脱出行は困難を通り越し、悲惨な末路となることだろう。
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