終わりに向かう夕暮れ。

3/4
前へ
/35ページ
次へ
私と少年は、夕暮れの中で笑っていた。 職場の上司が嫌いだとか、 学校で馬鹿な奴がいるだとか、 端から見ればどうでもいい話。 でも楽しかった。 そこで改めて気付く。 こんなに笑ったのって、久しぶり。 いつからだったかな? 私がもう一人の、 強い自分を作ったのは。 強がって、嘘を吐いて、 ムリヤリそれを誇って、 いつのまにかそれが普通になってた。 本当は寂しかった。 本当は悲しかった。 独りにはなりたくなかった。 それを誰にも気付かれたくなくて。 そこまで何となく感じて、 また、今度は二つ気付いた。 ああ、なんで気付いちゃったんだろう? 気付かなくたっていいのに。 「ソイツ、おもしろいんだ。 この間も教室内でいきなり寝転んだら、 やってらんねー! って駄々こね始めてさ」 やっぱり前髪長いなーって思う。 何となく、触れてみたいと思う。 ただ触れるのが恥ずかしくて、 理由を探してる自分がいて、 それを見つけられた。 私は彼の髪をかきあげる。 「…なんスか?」 声に、はっ、とするけど、 さっきの理由を、言った。 「んー、キミ、前髪上げたほうがいいよ。 そっちのほうが男前ー」 ただ、顔を見たいだけ。 興味本位と思わせるための、 触れるため言い訳。 「これは俺のポリシー」 「なんスか、それは?」 また笑った。 夕暮れは消えていく。 今日が終わりに近付く。 「そろそろ星が見えるな」 彼が空を見上げる。 ああ、本当だ。 もう暗い。 満月が空高く輝いてる。 「このまま星を見るのも、 うん、楽しいかもな」 彼が私の方を向いて、 笑った。 屈託無く。 何で私はありのままでいられたんだろう? その答えはもう知ってる。 気付かなくたってよかったのに。 気付きたく、なかったのに。 月が私達を照らしてた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加