一夜恋物語。

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車であの丘に向かう。 道はちゃんと覚えてた。 一度しか通ってないはずなのに。 一年も前に通っただけなのに。 変わらない。 何も変わってない。 でもどこか違う。 そんな気がする。 丘について、車を下りる。 一本だけ生えた木に寄りかかって、 景色をずっと見てしまった。 時間も忘れて。 いつの間にか夕焼け。 太陽が沈んでいく。 ああ、沈まないで。 もうちょっと、あと少しだけ、 夜なんて来ないで。 明日なんて来ないで。 夕日が沈んでしまったら、 きっと完璧に終わってしまう。 そんなのヤだ! 私は立ち上がって、 叫んだ。 「待ってよ、沈まないでよ!」 無理な話なんだけど。 それでも。 「ダメ! まだ好きなんだもん! 名前も知らないけど、 好きになっちゃったんだもん! しょうがないじゃないじゃない! 好きなんだから!」 もう何を言ってるんだろう、私。 誰もいないのに。 もう終わっちゃったのに。 私の恋はもう終わっちゃったのに。 想いだけ、消えてくれない。 沈んでく。 想いが沈んだらどこに行くんだろう? 心の中で重く、沈んで、 消えてくれないんだろう。 それでもいいよ。 忘れないでいられるなら、 それでいいよ。 「好きなの! どうしても! 忘れられないの!」 このまま、そのまま。 それでも夕日は沈む。 私の想いだけを、空に残して。 空と街の境界線が曖昧に揺れた。 そして光が灯り始める。 空には月が輝いていた。 街にはカシオペアが煌めいてた。 ふと、思い出した物語。 なんの脈絡も無く、 なんとなく思い出した。 ああ、カムパネルラも、 きっとこんな風にまっていたんだろう。 そして呟く。 数時間前と、まったく同じ言葉を。 「ああ、終わっちゃった」 今度こそ本当に。 ホントウに。 「…ずるいよ、好きなのに」 「誰がずるいんですか? それに名前も知らないのは、 俺もなんだけど」 声がして、振り向けなかった。 信じられなかったから。 「で、誰が好きなんですか? さっきから叫んでたけど」 覚えてる。 覚えてるよ。 「…わかってるくせに」 やっぱり終われない。 「まあ、そうですね。 一年、捜したんですよ。 もう一度、最初から始めるために」 涙が、流れる。 今度はうれしくて、嬉しくて。 「俺も好きだよ、アナタのことが」 ありがとう、ありがとう。 私も、好きだよ、君のこと。 「ああ、俺の名前ですけど、改めて。 俺は…」
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