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──あれから数日、俺は夜も眠れなかった。
あの蟹は幸い、一命をとりとめたようだ。
それを聞いて、俺は心底安心した。だが、俺の気は一向に晴れなかった。
───あの蟹に謝りたい。直接会って、詫びをしたい。
でも、怖かった。あの蟹に会うのが。
俺はあの蟹に嫌われた。と言うか、恨まれているだろう。当然だ。
何せ、俺は命を奪いかけた張本人だ。会うことさえ許されないかも知れない。
だからこそ、怖かった。直接会って、恨まれている事実に直面するのが。
────謝りに行こう。
俺は逃げていたんだ。せめて記憶の中だけでも、あの蟹には笑顔でいて欲しかった。
でも、脳裏に写るのは、甲羅の割れた、無惨な姿ばかりだった。
だから、どんなに恨まれていても、俺がどんなに傷付いたとしても、謝りに行こう。そして、お礼を言おう。
俺の、命の恩人に。
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