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──既に満身創痍だった。
だからなのか、ここが蟹の家だという証拠が無くても、蟹の家であると確信出来た。
俺は、蟹の家へ足を踏み入れた。
あの蟹はどこにいるのだろう。 やはり奥の部屋で寝ているのだろうか。
そう思って居間に上がり、囲炉裏の横を通りかかった。
───その時。
「喰らえっ!蟹さんの仇!!」
バン!という何かが爆ぜる音がして、囲炉裏の中から、高温に熱せられた“栗”が、弾丸の如く発射された。
「ガハッ……!」
栗は俺の顎を見事に捕らえ、その爆発的な攻撃力を俺の体へと伝える。
俺の体は宙を舞い、弧を描いて背中から地面に着地した。
その時、俺は悟った。
───あぁ、そうか。
やはり、俺は招かれざる存在だった。いや、むしろ、制裁を与える為に招かれた客なのかも知れない。
どちらにせよ、俺は蟹に会うに値しない存在なのだ。
良かった。
あの蟹には、自分を守ってくれる、こんなにも素敵な仲間達がいる。
俺はもう必要無いのかも知れないな。
ただ、俺があの蟹のために出来る事が唯一あるとすれば、
悪役として、潔く成敗されること。
俺は、全てのトラップを受けた。
自らの使命として。自分への罰として──
「ぐぁあっ……!!」
外に出た途端、上から臼が降って来た。全体重を乗せた、容赦のない攻撃。
ミシミシと骨の軋む音が全身に響く。
意識が遠退く。だが、最後の力を振り絞り、その場から退散する。
悪役の役目を成し遂げるために。
───そして俺は、またあの蟹の前から逃げ出してしまった。
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