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「はぁっ…はぁっ……」
俺は村から逃げ出し、少し走った所で体力が尽き、そして、近くにあった柿の木に寄りかかって座った。
俺があげた種を、あの蟹が育て上げた柿の木。
また偶然にも、俺とあの蟹が初めて会った小道の脇でもあった。
そして、俺があの蟹に、柿をぶつけてしまった場所。
本当はこんな所で休みたくはなかった。
あの蟹に命を助けられた。
お礼をしようとして木に登った。
あの蟹に柿をぶつけてしまった。
結局最後までお礼を言えなかった───
あの蟹との思い出が、鮮明に思い出される。
あまり良くない思い出だ。
そしてこの場所には、俺の罪悪感と後悔が深く渦巻いている。
けれども、逃げることはもう叶わないようだ。
全身が悲鳴をあげ、もはや指一本すら動かない。蜂の毒が回り、視界がぼやける。
俺は命を救われた場所で、今度こそ死ぬのかも知れないな……
「ハハッ、俺の生涯、こんなもんか。」
「─────ひどいけが!!大丈夫ですか!?」
「………!?」
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