0人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?」
その蟹は、少し戸惑ったような様子を見せた。
当たり前だ。いきなり来た見知らぬ誰かに、自分の物を渡せる訳が無い。
でも俺は諦めなかった。
「じゃあ、この柿の種と交換してくれませんか。」
我ながら馬鹿げた提案だった。こんなどこで拾ったかわからない柿の種と、その大きなおにぎりを交換してくれるとは、到底思えなかった。
しかし、
「……いいですよ、交換しましょう。」
そう言って、蟹はあっさり承諾してくれた。
俺は柿の種を渡し、すぐさまおにぎりに貪りついた。
無我夢中でおにぎりにかじりつき、あっという間に完食した。
よかった!生きてる!
生き長らえた感動が、大きな波となって込み上げてくる。生きていることの感動を、奇跡を、今初めて実感した。
「ありがとう!!蟹さ…」
お礼を言おうと思ったが、命の恩人は、もうそこにはいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!