脱出劇

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どくどくと、耳の近くに心臓があるのではないかと疑うほど大きく、早く、鼓動を打つのが聞こえる。 全力だった。足が止まらなかった。 どのくらい走ったかわからない。 一度でも止まれば、もう一度前へ進むことは不可能だとわかっていた。 限界。 そんなものはとうに超えていた。 それでもオレは止まらなかった。 今、自分を突き動かしているのは、生への執着。渇望。 死ぬほど、生きたいと望んでいた。 「はぁっ……はぁっ……」 道無き道は体力を奪っていく。 足元をとられまいと、必死で踏みしめる。 頬を伝うのは汗だけではなかった。 「くっ……!!」 怖い。 死ぬのが怖い。 それがこれほどに、嬉しい。 息が上がるたび、歓喜にうちふるえる。 ぱたぱたと、止めどなく滴が落ちていく。 オレは今、生きているんだ。
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