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女は子供を必死に庇いながら「助けて助けて」と叫んだ。
可愛らしい五歳くらいの女の子である。ビクビクと顔中を痙攣させ涙の跡が愛くるしい。
叫ぶ母親の手を無理やりこじ開けると、少女はより全身を強ばらせた。
私は彼女が怖くないように笑って頭を撫でてみせた。
すると僅かな水の滴る音と香ばしい薫りが床から漂う。どうやら彼女は失禁したらしい。
「大丈夫。怖くないよ。ママも大丈夫心配しないで。さぁ、向こうへ行きなさい。」
母親は私の身体を全力で押しのけ彼女を走らせた。
銀行のフロアには沢山の血だまりがあったが、彼女はそんなものに気にも留めず駆けていった。
母親の趣味なのかピンクのドレスに白い靴下赤く小さな靴、駆ける度に跳ねる鞄。
外はすでに大勢の警察官に包囲されていた。赤と青のライトが物々しく明滅し、事の重大さを激しく主張していた。
私は至って落ち着いているようだった。
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