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精霊の村。
外聞では精霊と共存をしている村と知られている。
事実それは正しい。しかしニュアンスが異なる。
村人と精霊と共に手を取り合って暮らしているのではなく。村人が一方的に精霊を使役して暮らしているのだ。
土の精霊に畑を耕させ、水の精霊に飲み水を湧かせ、火の精霊に火を熾させ、風の精霊に風を吹かせる。
共存とは言っても完全な主従関係。祀りの儀式というのも従わせる為に必要な行事に過ぎなかった。
そんな村で、一人の少女が精霊に恋をした。
二人が出逢ったのは満月の出る真夜。少女がふらふらと出歩いていた時のことだった。
「精霊……さん?」
深い青色の池を囲む石の上に青年が腰掛けていた。
青年の銀色の艶やかな長髪に透き通るような白い肌は人間のものには見えなかった。
――もしかして精霊?
そんな思考が自然に口から零れてしまった。
青年が少女を見た。
少女は青年の視線を緊張を持って受け止める。もし間違っていたらどうしようと。
精霊は滅多に人前に姿を現さない。だから少女もそれが本当に精霊なのかわからなかった。
「そうだよ」
それが返って来た言葉。どんな水よりも澄んだ美しい声だった。
「じゃあね」
「待って!」
消えようとする精霊を少女はとっさに呼び止めていた。
もっと話をしたい。もっと彼の事を知りたい。
心の内を叩くような衝動が少女を襲った。
一目惚れだった。
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