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十三歳の誕生日。
椿姫と瑞希は家で留守番をしていた。
椿姫は日課の勉強をして午後を過ごすが、どうにも手に付かない。
椿姫はふと窓越しに空を見た。今にも雨の降り出しそうな曇天。
濁った灰色は見ているだけで気が滅入りそうになる。
椿姫は無意識に自前の赤髪のポニーテールを弄る。艶やかな自慢の髪だ。
椿姫が無意識に髪に触れるのは不安な時の癖だった。
コンコンとノックの音がして、椿姫は振り返った。
「……姉さん」
「……うん」
いたのは双子の妹の瑞姫だ。椿姫とは違って青髪で、髪型もポニーテールではなくツインテールだった。
二人はその一言だけで気持ちを共有した。
二人はリビングへと向かった。
テーブルを見る。
そこには木箱が置いてあった。
「六時になっても帰らなかったら、先に食べなさい」
母が木の実をふんだんに使って作った誕生日のパイだ。腐らないように木箱の中に収めてある。
嬉しいはずの誕生日なのに、楽しいはずの誕生日なのに、二人は共に嫌な胸騒ぎを感じていた。
「開けてみないか?」
椿姫が言った。
確信があったわけじゃない。強いて言うならば予感。
瑞姫も同意して、木箱をそっと持ち上げた。
そこには、
『強く生きなさい』
と生クリームで書かれた文字があった。
予感が確信へと変わる。椿姫は弾けるように外へ飛び出した。瑞姫もそれに続く。
ポツポツと小雨も降り出していた。雨粒が髪を濡らすが、気にしてはいられなかった。
……村の様子が騒がしい?
それは祭りの前のざわめきに似ていた。
二人は早足で騒ぎの中心地へと向かう。
村の広場に着くとそこには人壁ができていた。村の住民の半分以上の人が集まっている。
二人は人壁を押しのけて前へ前へと進んだ。
もみくちゃにされながら、一心不乱に突き進む。
ようやく二人は人壁を抜けた。そしてされは考えられる限り最悪のタイミングだった。
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