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少年――ツヅラ――は荒野を高速で移動していた。
握るはハンドル、駆るは四人乗りの自動車。この自動車もアキラがジャンクから作り上げたものだ。
四人乗りと手狭なものの、躍動する力強さがあった。
凹凸を行くその様子は、跳ねると言っても過言ではなかった。しかし常に振動を続ける車体をツヅラは涼しい顔で運転を続ける。
ツヅラが道なき道を行くのには二つの理由があった。
まず舗道された道は各所に関所があり、通行料を取られるからだ。ツヅラに通行料を払うような余裕はなかった。
次に精霊の村と呼ばれる村に行くには、この荒野を突っ切るのが近道だから。
正規ルートを通れば三日かかるところを、約半日で行くことができる。
約六倍。それだけの差が出てくるのは、国土の三分の二は整備されていないのに原因がある。
今の日本にそれだけ余裕がないということを示していた。それは中国、米国も共に同様だ。
終戦から半世紀。いまだ第三次世界大戦の残した爪痕は深い。
礫地帯から砂地帯。さらに山岳地帯へと移り変わり、遠目に精霊の村が見えてきた。
精霊の村は霊山の麓の村だ。村の周囲には数メートルを越える鋭い岩が不自然にいくつも屹立し、自然の要塞と化していた。
おそらく人為的なものだ。
その岩を切り裂くように村から伸びる一本の道。これを辿って進めば正門まで至る。
ツヅラは岩の乱立する地帯に差し掛かる直前で自動車のスピードを落とす。村からは死角となる岩陰へと停車した。
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