第一章 紅と蒼の双魔女

3/5
前へ
/120ページ
次へ
――精霊の村。 文字通り精霊を祀り、共存している村を指して付けられた名称である。 過去には別の名称があったのだが、今では村人自ら誇りを持って精霊の村と自称している。 本来の名称は誰の記憶からも風化して、残されていなかった。 では祀っている精霊とはどのようなものか。 精霊とは大地震の後に現出するようになった怪異の一つだ。一つ一つが意思を持ち、怪異の中では友好的ではあるものの、世間的には受け入れられていないのが現状だ。 だからだろう。精霊の村はひどく内向的だった。 よそからの人を受け入れず、拒絶するように高い外壁の中で暮らしている。 しかし外との交流が全くといってないわけではない。村に入れる唯一の職種があった。 商人だ。 精霊を祀る上で必要な物資が村の遙か遠方にしかなく、商人の手を介してでしか手に入らなかった。精霊の村はやむを得ずといったように、商人とだけ細々とした繋がりを持ち続けている。 その弊害と言っては大袈裟だが、村の内情が外部に洩れる時がある。 この時代の商人という人種は金になるなら自分の命以外はなんでも売る。情報とて例外ではない。 それが商人が忌避されている理由だ。 ツヅラはとある筋にてこの村の情報を小耳に挟み、半ば気まぐれで来るに至った。 その先に災難が待ってるとも知らずに。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加