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ああ、諸行無常。
ああ、生者必滅。
さきほどまで親友と何気ない会話を楽しんでいた少女を、4トンの疾走する鉄の塊は一瞬で壊してしまった。さきほどまで、精神世界と物質世界の狭間を泳いでいたはずの彼女の存在は、いまや意思の及ばぬ物質世界の虜となったである。
「アケミ!アケミー!いやじゃー!!」
もはや応えることのない、その物質に対してポテミは叫び続けていた。
死とは、この世で最も(唯一と言ってもいいかもしれないが)平等だ。誰であっても、死は等しくその者の扉を叩く。しかし、その訪問は時として突然過ぎ、人を混乱させる。
「めんごめんご。赤信号が紫色に見えてしまって。」
そう言いながら、その男はトラックから降りたった。年齢は30前後に見えた。身長は175cmほど、程よい長さの黒髪をリボンで留めたその顔は、とうてい殺人者には見えないほど涼しく、綺麗であった。ポテミはその顔を、思い切り睨み付けていた。
「紫色ですって?あんたは紫式部かっつーの。」
「トホホ。…でも、無事で良かった。」
「友達。」
ポテミは変わり果てた親友を指差しながら、じっと男を見つめた。
「友達死んだんだけど。」
「…。」
「自首して。」
ポテミは気づいていた。
「でも…。」
「アケミを返してよ!」
「君が無事で良かった。」
そう。一目見て理解していた。
ポテミは、この男に恋をしていた。
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