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「おかえりなさい。今日は少し遅かったのね。」
ポテミはその声には応えず、自室へと向かおうとした。ポテミはこの女性のことを母親だとは思っていなかった。
「ご飯できてるわよ。」
「いらない。」
「でも、今日はポテミの好きなチーズバーガーなのよ。」
「耳くそが詰まってるなら仕方ないけど、いらないって言ってるでしょ?あとポテミって呼ばないで。」
女性は一瞬戸惑ったあと、表情に露骨な怒りの色を見せた。
「あなた…母親に対してそんな口の聞き方…!」
「母親なんかじゃねえ!誰だお前!昨日からいるけど本当誰だよ!」
怒鳴られた女性は何か言おうとしたが、黙って踵を返すと玄関から出て行った。誰だったの。
「あら、今帰ったの?」
二階から姿を現したのがポテミの母親だった。
「お母さん少し具合悪くて横になってたのよ。」
「ふうん。私ももう寝るから、ご飯は大丈夫。」
「そう。」
親子の会話はそれきりだった。ポテミは“なんとなく”母親が好きではない。喧嘩をしたり、表立って反抗することはないし、母親もとやかく言ってくることはない。母親の仕事もきちんとこなしているように感じている。
しかし、なぜか好きにはなれないのだった。
(お父さんがいたら、少しは変わったのかな)
ポテミはたまにそう思う。ポテミの父は、彼女が産まれてすぐに死んだ。交通事故だったらしい。ポテミは父親の顔を見たこともないのだ。写真なども見たことがないし、母親も何も言わなかった。ポテミも“そんなもんなんだろうな”と思っていた。
ポテミにとって家族という存在は限りなく希薄であった。
母親も孤独の身で、親族も娘のポテミ以外にはいないらしかった。だからポテミも、自分もそんなものだろうと思っていたのだった。
そして、母親が働いていないのになぜ生活が出来ているのかも、ポテミにはわからなかった。
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