序章

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二十代半ばから、今の仕事やとりわけ社長に振り回されて来た。 文字を書き込む事、それは仕事に限られていた。企画書、メール、ミニブログ。 優しい言葉とは無縁の世界だった。端的に、的確に意図を伝える。それだけが、目的の世界だった。 友人達や、恋人と携帯のメールでのやりとりにも、ハートマークすら使えない。 『えりのメールは、ほんとに色気無いよな』 『恥ずかしいんだから、仕方ないわ』 忙しくて、会うことすら侭ならない。メールで媚びる可愛い女も演じられない。 そんな女と、長く付き合える奇特な男は現れなかった。 今だって、そうだ。《蒼》以外に訪れる人は居ない。何度かやりとりをしても、愛想の無い、ノリの悪い女にはすぐに返信も来なくなる。
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