序章

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気が重い、社長と二人で何を話せば良いのだろうか。 短く溜息を付いて、携帯の液晶を眺める。-BOSS-選んで、ボタンを押した。 「おお、佐野か。予定見たか?」 「ええ、見ましたよ。どうすれば良いですか?」 「玄関に車回しとくから、それで来てくれ。悪い、忙しいから切るぞ」 人の返事も聞かずに、電話は切れる。せっかち、短気、いつもの事だとわかっていても少し腹も立つ。 「お先するからね、後は頼んだよ」 平日、五時に退社するなんて、いつ以来だろうか。 黒塗りセダンの後部座席へ、身体を滑らせる。独りで乗ると、快適な程広い。 「お疲れさまです。出して宜しいですか?」 「もう、三浦さん。私にそんなに丁寧な話し方しないで良いですから」 「それが仕事ですから」 ミラー越しに見える顔は、嫌味の無い感じで微笑んでいる。 「三浦さんも大変よね、社長と二人だと気詰まりしない?」 もちろん、冗談でそう話しただけだ。三浦の表情が一瞬曇る。 「いえ、私には優しい方ですよ。ただ、最近少しお元気がありませんね」 「やっぱり?なんだか、変ですよね。三浦さん何か知ってる?」 「それは…まあ、私の口からは言えませんよ」 ペラペラ話す運転手などいない。それは勿論わかっているが、三浦の口ごもり方からは、何かが感じられる。
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