序章

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緊張しているわけでも無い。多分、仕事の話では無いだろう。 そこが余計に気が重い点だった。 車は、静かな住宅街にある、こじんまりとしたイタリアンの店に到着した。 「へ~、こんな所にお店があるんだ」 華美な装飾も無い、それでも重厚な店のドアとイタリア国旗でレストランだと分かった。 白い大理石の細い通路をまっすぐに歩く。カツンとヒールの踵が大理石を蹴る音が響く。 濃いめのオーク材で造られた、小さめの受付カウンターで、イタリア人らしい彫りの深い男性が微笑みながら軽く頭を下げる。 こちらが声を掛ける前に、右手を身体の前で滑らせて、どうぞこちらへ、そんな風に私を案内した。 店の奥、半分個室のようなスペースに、榊が頬杖をついて座っていた。
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