序章

30/40
前へ
/40ページ
次へ
そのままの格好で、チラリと私を確認すると、軽く右手を上げて口角を少し上げ笑ったふりをする。 「悪いな、呼び出して」 「構いませんよ、別に。素敵なお店ですね」 「ああ、隠れ家みたいなもんだな。のんびり出来る」 くつろいでいる様にも見えた。と云うよりも、気が抜けているといった感じにも見える。 「何だか、別人みたいですね。気の抜けたシャンパンみたい」 「そうか?呼び出しておいて、それも失礼な話だな」 そう話しながら、座り直す。 「取り敢えず、泡でも飲むか?」 「そうですね、お任せします」 キリリと冷えたスプマンテが、グラスに注がれる。まだ六時前、この時間に飲むなんて贅沢この上ない。 「嫌いなもの無かったよな?適当に運ばせるけど良いか」 軽く頷いた。余計な気を遣わせないスマートさは、さすがだなと感心する。 一杯目のグラスが空になる頃、私から話をふってみた。そうでもしないと、何も話し出す雰囲気が無かった。 「何かあったんですか?」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4181人が本棚に入れています
本棚に追加