序章

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不思議な話だった。都内の一戸建てに、奥様と自慢の一人娘。まだ、中学生の筈で旅行に出かける季節でも無い。 「春休みは、とうに終わってますよね?」 「お前は、ほんとに噂とかに疎いよな」 榊が苦笑いしながら、そう話した。個人的な噂話など、私の耳には入ってこない。 特に、この男に近いと思われているからだろう、榊の話など聞いた事も無かった。 「聞かない方が、良さそうですね。私、地雷でも踏んだみたい」 「地雷ね。まあ、事実だから仕方ないんだけどな」 「無理にお話にならなくて、結構ですけど?」 「そう言ったって、此処まで聞いたら気になるだろう」 「それはそうですけどね…」 「出てっただけだよ、娘と一緒に。お陰で、独身生活だな」 自嘲気味に笑う榊は、それは寂しそうに見えた。
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