4人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ、結局また仕事か」
無線で上司からの出動命令を受けた俺は、疲れたように小さくため息をついた。
きっと、また誰かが死んだのだろう。そうでなければ俺達に仕事はまわってこないはずだ。
それにしても、最近どうも仕事量が増えている気がする。
仕事がないよりかはマシだと思うべきなんだろうが、生憎俺達の仕事は世間が悪くなると増えるタイプだ。探偵や警察が暇な事は平和な証だってよく言うだろ。あれと同じだ。
世界が平和=仕事が暇になるだなんて、本当に皮肉なもんだな。平和主義者の俺としちゃあ、正直暇になる方が嬉しいんだが。
まぁ、こんな事を上司の前で言った日にゃ、確実に大目玉を食らう。下手すりゃ首を切られるだろうな。
[おい君、何をしている。さっさと現場に行ってこい!]
噂をしていれば、上司のヤツからの通信だ。
どうやら、なかなか現場に向かわない俺に対し、痺れを切らしたみたいだ。
まったく、一々煩いヤツだな。上司というのはこんなにも鬱陶しいものなんだろうか。
「すいません、今すぐ向かいます」
一応素直に謝る俺。
だが、眉間に寄せられたシワは真っ正直に俺の苛立ちを表現していた。
[――現場の天候は雨らしいが、傘はちゃんと持ったのか?]
多分何も気づいていない上司は、小学生の息子を持つ母親の口調で訊ねてきた。
念のため言っておくが、俺は雨の時に備えて常に愛用の折りたたみ傘をローブの中に仕込んでいるので、たとえ現場で雨に見舞われても特に問題はない。
しかし、ここでヤツに何かしら返事をしないと、帰った時に煩いだろう。
そう予測した俺は、仕方なく上司に返事をする。
「はい、それに関しては、抜かりはありませ――」
[年末は忙しいから寝込まれると困るんだからな]
「だから、抜かりないって言――」
[少なくとも、インフルエンザだけは貰ってこないように]
「だーかーらー」
[それから、風邪を引かぬように暖かくして――]
ブツッという音と共に、上司の声が途切れる。
さすがに鬱陶しかったので、俺の方から通信を切らせてもらった。
切った後で、上司を怒らせてないか少し心配になったが、これくらいは許してくれるだろう、と勝手に思う事にした。
まぁ、少なくともご機嫌斜めにはなっているだろうが、そこは気にしない。気にしたくもない。
最初のコメントを投稿しよう!