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柏木は一人土手を歩いていた。水辺独特の湿った空気が身体に纏わりつく。先日降った豪雨の所為で、川は増水し勢いよく流れていた。額に浮いた汗を拭っても、またすぐに噴き出す。
今夜も熱帯夜である。
柏木は地方都市の郵便局員をしている。郵便局員と言っても配達をするのではなく、主に保険の手続き等が柏木の仕事だ。
今年の春で勤続10年になった。特に辛くも無ければ面白くもない仕事である。郵政民営化で給料が半分になった時には本気で辞めようか悩んだが、妻の事を考えると出来なかった。
結婚は30の時、大学時代から交際していた女性と結ばれた。子どもは居ないが、居ないなりの静かで落ち着いた生活に満足している。
今日は月末の締め日だった事もあり、帰りが随分と遅くなってしまった。暑くて腕時計を見る気にもならないが、きっと時針は真上を指している事だろう。妻は毎月の事なので、もうきっと眠っている。そのことを寂しいと感じるには、柏木は少し年を取りすぎていた。
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