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 ここの階段を昇ればマンションに着くというところで、ふと、水の跳ねる音がした。最初は魚でも跳ねたのだろうと大して気にしていなかったが、どうにもおかしい。魚にしては音が激しすぎるような気がする。柏木は少し引き返し、川面を覗き込んだ。 ばしゃん!  その時、一層強く水しぶきが上がった。柏木は目を見張る。あれは魚などでは無い。夜目にも白く浮かび上がる男の腕が、もがいているのだ。 「なっ…!」  突然訪れた非常事態に、柏木は混乱した。消防?救急車?いや、呼んでる暇はない。考えている間にも、男はどんどん下流に流されていく。  とにかく助けなくては。その一心で土手を駆け降りた。夏の土手は草が生い茂っており、頬を擦りむいたがそんな事構って居られない。やっとの思いで川縁に転がり着いた。  幸運にも男は、比較的こちらの川縁近くで溺れている。これなら何とか助けられるかもしれない。ジャブジャブと水中へ入って行く。   ぬるい水が全身を包み、身体がずんっと重くなる。柏木は泳ぎが得意な方では無い。幾度となく自分も流され、溺れそうになりながらも男の元へ辿り着いた。
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