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「くそ…っ、おい…!おいあんた!!何やってんだ!?」 男のもがく腕を掴み、何とか川縁まで引き上げる事に成功した。  どうやら水を大量に飲んだらしく、呼吸が酷く弱々しかった。時折水を吐こうと身体が痙攣を繰り返しているが、上手く吐けずにうめき声を上げるばかりであった。  まずい。 「待ってろ、すぐに人を呼んで来るから。」  柏木は最早自分一人ではどうにも出来ないと感じ、周囲の民家に助けを求めんと走り出そうとした。  しかし突然男に腕を掴まれ動きが止まる。存外に強いその力に柏木は動揺した。生きる為に、必死で母親を求める赤子の様な熱を感じ、自らも溺れたかの如く呼吸が苦しくなった。 「おい、大丈夫だ。すぐに戻る、か…ら…」  だから離せと、男の腕を外す為に振り返る。男の紙のように白い顔を、満月が照らした。
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