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何故、こんなことになってしまったのだろう。
美しかったはずの白い壁や、丹念な彫刻がなされた回廊。
朝までは神々しく光り輝いていたはずのそれらが、見るも無残に崩れさっていくのを、彼女-イルシアは、ただ、見ていることしかできなかった。
彼女のいるアスバルト王国の王城、マシリア城は、その荘厳さと神々しさから、古くから国民の誇りだった。
が、しかし。今、彼女の目の前にある光景は、それと同じものであるとは到底信じられるものではない。
それは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
神々しく美しいと崇められた白亜のマシリア城は反乱兵たちに蹂躙され、逃げ惑う人々の悲鳴と鮮血に染め上げられている。
-どうして?
一体なぜ、我々の国がこんなことに。
いくら問い掛けても、応えてくれる者などいない。
「姫様!早くお逃げください!まもなくここにも敵が押し入って参ります!」
そう叫んで兵士が彼女の方へ走って来るが、そこで力尽きたように倒れる。
見るとその背中には矢が深々と突き刺さっている。
イルシアは彼のそばに駆け寄り、必死で声をかける。
「しっかりして!傷は浅いよ」
しかし、その声に応えることなく兵士の首がたれる。
「あぁ……!」
どうして、このような殺戮がおこるのだろう。
彼女はうなだれる。
その時、
「姫様!イルシア様!」
聞き慣れた声がひびき、彼女の剣の師匠である老将軍が走ってきた。
「アラン将軍!無事だったんだ!」
ほっとした顔をする彼女に向かい、彼は告げた。
「王からの伝言です。今すぐ、王城から逃げよ。周りなどはほうっておいていい。もちろん私も、だとのこと!」
それを聞いて彼女は、
「ふざけるな!みんなを置いていけるか!」
と叫ぶが、
「援護は私が致します。さぁ…」
と言う将軍に手を引かれどんどん城は遠くなる。
「嫌だぁ!父様、母様!」
彼女の声は、喧騒へ消えていった。
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