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ぶすぶすと黒煙の立ち昇る城内に、重々しい軍靴の音が響き渡る。
血溜まりの中倒れ伏す兵士達を無慈悲にまたぎながら、その男は大広間に現れた。
アスバルト王国中でも有数の財を持つ公爵家であるミランディオ家の次期の長、ヒュー・ミランディオ。
多くの人々の命を奪っておきながら、彼は微笑みさえ浮かべている。
その様子を、床に引き据えられた国王は、無念の思いとともに見据えていた。
「これはこれは、陛下。夜分遅くに申し訳ありません。…お怪我はありませんか?」
まるで社交辞令でも述べるかのようにヒューは言った。
王はその言葉を無視し、彼に罵声を浴びせる。
「次期ミランディオ卿!貴族の身でありながら国を売った、売国奴が…!総帥や公爵はどうしたのだ!」
すると、挨拶を無視されたヒューは不快げに眉を寄せ、吐き捨てる。
「あぁ、父と祖父のことですか。真っ先に殺しましたよ、あんなごみ屑ども」
「なんと……!」
王は絶句した。そして、肉親の命さえ平然と奪えるこの男に底知れぬ恐怖を感じた。
「さて、雑談はこのくらいにして。…王女の姿が見えませんが、何処へ行かれたのですか?」
ヒューのその質問を、王は無視する。
すると、ヒューは頬を引き攣らせ、
「早く答えたほうが身の為ですよ?」
と手で合図を送る。すると、彼の後ろに控えていた兵士達の一人がツカツカと歩みより、宰相の胸に長険を深々と突き刺した。
「ぐはぁっ……!」
血を吐いて倒れ伏す宰相を見て、残りの家臣達がざわめく。
「さぁ、早く王女の居場所を言わないと、次は誰が死ぬことになるか分かりませんよ?」
王は笑顔で脅しをかけるヒューを睨み据えるが、
「……ここにはもう、いない」
「…何?」
聞き返すヒューに向かい、王は嘲りをこめて、もう一度繰り返す。
「王女はここにはもういない、と言ったのだ!哀れよのう、次期ミランディオ卿!城には王しか知らぬ抜け道が存在するのだ。娘には、指一本触れさせはせぬ!」
それを聞いて、もう聞き出すべきことはないと踏んだのか、ヒューが顎をあげる。
「まぁ、いいでしょう。
…彼女は、籠の中の小鳥だ。必ず、見つけ出してみせる。」
そうつぶやくと、後ろで控えていた兵士達に、
「ここにいる方々を、残さず丁重に地下の牢獄へお連れしろ」
と指令を出し、
「それでは皆様、ご機嫌よう」
と言って去って行った。
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