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これは、悲しくも可笑しい物語である。
僕がまだ和彦と呼ばれていた時のこと。
その日、いつの間にかスケジュール表に入っていたバイトという文字に気付き、僕は、断腸の思いで、バイト先であるBへ向かった。
僕がBへ着いたのが、午後五時半。
その日は五時出勤のシフトだったので、少し早く来すぎたようだ。これからは気を付けろよ、と自分にきつく言っておいて、あまりにきつく言い過ぎたため大声を出して泣いてしまった。
べそをかきながら店内に入ると、店員、客を含め、人っ子一人いなかった。
このBは、「リサイクルショップ」と呼ばれる店で、中古の本、CD、ゲームはもちろんのこと、他の店の残飯や、使い差しの割り箸、いらなくなった有田などを、幅広く販売している。(もちろん有田は人っ子には入らない)当然、今迄にまだ客というものは見たことがない。朝のメンバーである、名奈志、知可子、紀子、鳥居の国籍不明のマスクマン四人組(恐らく名前から推測するに男)も五時前には必ず退社するので、見たことがない。すなわち、いつもの風景ということだ。
僕は、暇つぶしに日課である、店内商品の万引きをしながら他のメンバーの到着を待った。
待つこと三時間。薄気味の悪いハミングと共に、一人の男がやってきた。全く似てない双子の弟、和也である。
「おはようざますのよ」
和也はハミングをやめ近づいてくると、隙間だらけの黄色い歯を見せながら、臭い息を吐きかけてきた。
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