《Kの悲劇》第一章 Kの悲劇

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       3  沢木の指示で、和也の死体を引き上げることにした。引き上げてみると、和也は、かなり不細工な顔で死んでいた。みんな、笑いをこらえながら、死体をバックルームと呼ばれる控室へ運んだ。  和也を調べた結果、口に紙をくわえていた。紙には、  「犯人は孝司」 と、書かれていた。  何だこれ?  そんなとき、伸が叫んだ。  「ダイイング、メッセージや」  アル中の言うことは、よく判らない。みんな聞き流した。  すると、西涼が口を開いた。だが、開いただけだった。  沢木が続く。  「もしかして、ダイイング、メッセージじゃ……」  そうか。しまった!  僕ははっとした。  『世界の○窓から』をビデオ予約してなかったことに気付いたからだ。  沢木は続ける。  「つまり、『犯人は孝司』という言葉に何か意味が……」  沢木の話を遮って、伸が立ち上がった。  「犯人が分かりました」  またアル中が訳の分からないことを……。……えっ?  「ほんまに?」  西涼が返す。  まさか。  「ああ。奴は、『犯人は孝司』というダイイング、メッセージで、犯人を伝えようとしたんだ。犯人は孝司犯人は孝司ハンニンハタカシ……」  言いながら、伸の声は小さくなっていく、そしてまた、少しずつ大きくなってきた。  「……ハタカシ犯人は孝司。つまり犯人は、『犯人は孝司』だ!」  僕にはにわかに信じられなかった。まさか……まさか『犯人は孝司』が犯人だったなんて……。  「違うな」  西涼が言った。  「犯人は、沢木や」  「なにぃ。なんやて、もう一回言うてみ」  沢木は満面の笑みで立ち上がった。  「なんでそう思うん?」  僕は訊ねた。  西涼は自信満々の顔で、  「彼の財布の中を見せてもらってみ」 と、言った。
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