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見てみると、財布の中には二千円あった。
「したがって犯人は、沢木や」
なるほど。……そうだったのか。
「違う」
続いて、沢木が言った。
「俺じゃない。二千円と『犯人は孝司』。共通点はない。したがって犯人は……」
僕にはその瞬間、犯人が分かった。
「判らない」
沢木は判らないらしい。したがって僕が真相を言うことになった。
「彼は殺されたんじゃなく、事故で死んだんです。便器にこの紙を落とし、それを拾おうとして、足を滑らし、便器に顔がはまり、抜けなくなった。しかし、この紙がもったいない彼は、口で拾った……。つまり、殺人ではありません」
「なるほどなぁ」
西涼が言った。みんなも納得顔だ。
しかし、一人苦々しい顔をした孝司が、ぼそりと呟いた。
「判った。そこまでばれてるんじゃ仕方がない。全部俺がやったよ」
やっぱりな。……僕の心境だ。
「あのダイイング、メッセージにまで気付くとは、そう、あれは、おまえの言ったとおり、『犯人は孝司』という言葉を並び替えると、犯人は孝司……と読み取れるということだ」
孝司が言った。
「警察へ行くよ。それとも和也君のところか?」
「なぜ殺した?」
彼を止めようとはせず、沢木が質問した。
「あのソプラノリコーダーは、実は俺の妹のものなんだ。奴は、口の部分を付け替えて……『間接キスしたで』と、俺を脅してきやがった……だから……」
「もういい。あれは事故だったんだ」
僕は、必死で涙をこらえて、そう言った。動機を聞いて同情してしまったためだ。
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