《Kの悲劇》第一章 Kの悲劇

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 僕は、弟のあまりに丁寧すぎる敬語口調に若干びっくりしたものの、彼の息があまりに臭かったので、返事と共に突き飛ばして一瞥をくれてやる。  身長百八十センチ。体格はがっちりとしたマッチョマン。黒々と日に焼けた素肌が、彼をよりいっそうたくましく見せる。  今日の服装は、黒のワイシャツに、お洒落なダメージジーンズ。背中には赤のランドセルを背負っていて、そこから真っ白のソプラノリコーダーが頭を出している。  ランドセルには短パンやろ! と、叫びたくなるのを押さえ、  「ランドセルには短パンやろ!」 と、叫んだ。  僕の猫なで声に、彼は瞳に涙を溜め、上目使いで僕の表情を窺ってきた。  ……正直、メチャクチャ可愛い。  僕は、抱きしめそうになるのを堪えるので精一杯だった。  ちなみに僕は和也が好きだ。好きとは言ってもあくまでライクで(奴はホモだが)、Aまでしかいってない。  次に現れたのは、伸だった。  彼も今日バイトに入っているメンバーである。  ひょろっとした体で、頬がこけ、縁なしの眼鏡をかけている。身の丈は百九十センチ。いつもこのことを自慢している嫌な奴だ。もっとも実際は、百九十センチのシークレットブーツを履いているので、本当の身長はかなり低く、靴を脱いだ彼は、目を凝らさないと見えない。アル中で、いつも腕を振るわせながら、「酒、酒……」と呻いているユーモアあふれた傑物だ。今もドンペリ片手に奇声を挙げている。  続いて現れたのが西涼。同じくバイトのメンバー。  色黒で、低肉中背。日本人でもっとも多い体格かも知れない。黒縁眼鏡をかけているのだが、その上にサングラスをするという、ダブル眼鏡ファッションで一世を風靡したのは、昨夜のことだ。本人曰く、「眼鏡を外せば、○ひろしかディカ○リオに似ている」と、ふざけたことをのたまっている。  僕は一度だけ素顔を見たことがあるが、確かに彼の言うとおり、猫○ろしには似ていた。
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