はじまりはいつも……

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若い女性の金切り声が店内に響いた。 「家賃がはらえないって?!」 若い男の小さい声が答えた。 「はい、財布おとしましたので、金ないです」 「ちゃんとさがしたの?」 「日雇い先から、私の部屋、途中の道、レックスの店にいたるまでさがしましたが、ありませんでした」 「で、もたない、の? 一銭も」 「はい……」 二人の男女が固まっていた。 二人とも引きつった顔で。 女性の方が先に立ち直った。 すらりとしたプロポーションの体に、清潔感溢れる白いシャツとズボン、かわいい赤いエプロンを身につけている。 彼女は赤毛を振り回し、腕を腰にあてた。 そしてにこやかに言う。 「で、あてはあるのよね?」 「いえ。せめて来月まで待ってくれませんか?財布に全財産入れていたんですから」 「何いってるのよ、シークさん。支払いはきちんとしなきゃ」 シークといわれた青年はうなだれた。 灰色の上着にシャツとズボン。 よれよれの格好と相まって情けない雰囲気を醸し出していた。 「せめて二週間待って下さい。ランさん。ちゃんと払いますから」 「そうねえ」 ランはやや厚いくちびるに人差し指をあて、歩き始めた。 テーブルとイスが並んだ店内を器用にすり抜ける。 ランが歩いていると、カウンター席の奥のキッチンから、低い男の声がした。
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