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薄暗く、何もない大部屋。扉と反対の壁際に漆黒のローブを纏う誰かがいた。顔は鉄火面で見えず、片手には短剣。敵かどうか判別がつかない。
クレハさんに目を向けると、手で下がっていろと合図され扉際に下がる。
クレハさんが部屋の中央まで剣を構えて歩み寄ると、ローブの誰かはゆるりと短剣を持ち上げた。そして────
キン、と剣のかち合う音。ローブの投げた短剣は白銀の剣に弾かれ宙を舞う。
宣戦布告、敵で間違いないようだ。
短剣が床に落ちたのを合図にクレハさんが地を蹴った。距離およそ八間。それを一秒かからず詰め上げて正面から斬りかかる。
胴への高速の斬撃。それを一歩引くだけで事も無げに敵は躱して見せた。
さらに踏み込んでクレハさんは剣を低く構える。敵が後方へ重心を傾けた。
「イチ!」
また後ろへ避けるつもりだろうがそれは止めさせてもらう。
傾いたまま静止。そこに白銀の剣が迫り、時間が切れると同時に敵の首をはねた。
斃──── え?
「あ──────」
クレハさんの腹部に短剣が刺さっていた。投げ捨てられていたあの短剣が、だ。その上、首無しの敵がそれを引き抜いた。
何が起きているのか理解が追い付かず、ただ見ることしかできないでいると、手をついてうずくまるクレハさんに敵は短剣を振り上げた。
それを見て反射的に俺は走り出す──── が、突然背中に激痛が生じ倒れ込んだ。
── 誰かに斬られた。
後ろに、入り口で斃した筈の鎧騎士が立っていた。斃した筈なのに……
無機質の甲冑が近づいてくる。背中の傷は浅い。逃げないと。
鎧騎士が剣を持ち上げ、容赦なく振り下ろした。
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