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「イチ!」
止めて、転がり回避する。一秒後、叩きつけられた剣が床を粉砕した。
背筋が凍った。自分がこうなるのも時間の問題。俺にこいつを斃す力なんて無い。
──── 怖い。
何で……俺はこんなにも力が無いんだ。
鉄の兜がこっちを向いた。俺は身体を起こして走り出す。
クレハさんは腹から流血しながらもローブの敵と打ち合っていた。一合ごとに苦悶の表情を浮かべて。顔色もだいぶ悪い。彼女は限界だ。
「カイト、逃げるよ!」
既に制限の一分は過ぎていた。敵を止めるとクレハさんがこっちへ走り出し、俺も部屋の外へ踵を返す。
「───────!」
進路を塞ぐ鉄の塊。こいつがいたか。
「雷槍!!」
背後から飛来した赤い雷が鉄の甲冑を貫いた。腹部が焼け焦げ、敵は膝をついて沈黙。俺はその脇を通り部屋の外へ。
クレハさんが出てくると、時間稼ぎに逃走用の閃光弾を投げて扉を閉めた。
隙間から溢れる光に少しでも時間が稼げることを祈る。
「敵は……あの二体じゃない。あれは傀儡……。本体は隅にいた小さいやつ」
駆けながら話す声はか細く、クレハさんは本当に限界だと悟る。廊下を走り、階段に差し掛かり、下るなか、
「ごめん────」
「何言っ────!」
上からクレハさんが落ちてきて、俺はその身体を受け止めた。
べっとりと血に濡れた腹部。呼吸は消え入りそうだった。俺はそのままクレハさんを抱きかかえ、階段を下った。
「私を置いていきなさい」
耳元で囁かれた言葉に歯を噛み締めた。心底腹がたった。何もできない自分に対してだ。
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