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◇
がらんとした大ホールに小さく崩れた天井から光が差し込んでいた。石畳を敷き詰めた床に薄く積もる乾いた砂が、光に照らされきらきらと輝いていた。
ホールの壁に背を預け、静かに高鳴る鼓動を胸に反対側の扉を睨んだ。
俺は弱い。それは重々承知だ。その事実は泣いて喚こうが決して変わることはない。だから考えないと。どうすれば敵を斃せるのか。考えて考えて考えて考えて。
思い返せば俺はいつだって自分の弱さから目を背けていた。いつか強くなるその日を夢見てひたすら鍛え、成果のでない今を否定していた。
自分を嫌うのは構わない。でも、弱い自分を認めず、向き合うのを止めてしまってはいけない。そんなことでは目の前の現実を取りこぼしてしまう。
自分は弱い、だから何もできない、ではない。
自分は弱い、その上で何をするのが最善かを考えなければならない。
一度深呼吸をし、頭の中をリセットする。余計な思考は止めよう。今考えるべきは如何にして敵を斃すかだ。
後ろの小部屋で眠るクレハさんを守るために、何としてでもここでけりをつける。
視線の先の扉が開く。鉄扉の向こうから現れたのは鎧騎士、ローブ、それから……小さなマリオネット。
衣服も髪もボロボロで体が煤けている。それがこちらを見るなりケタケタと笑い始めた。
あいつが大将か。姿を曝すとは余裕だな。
扉が閉まる。
「これで袋の鼠だな」
マリオネットが一層激しく嘲り笑う。ホールの壁に反響し笑い声に包まれる中、敵を仕留める算段を練っていく。
不思議と恐怖はなかった。寧ろ敵を殲滅せんと感覚が鋭利になり心は静かだった。
敵の笑い声が止まる。つまらなそうに顔を歪めこちらを睨み付ける。そんなに面白くないか。なら、
「さっさと来い、雑魚が。すぐ片付けてやるから」
安い挑発。乗るか分からないが。
乾いた笑い声が響いた。敵は憤怒の形相で笑っていた。
初手は好調、戦闘開始だ。
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